懐徳堂研究会とは

 懐徳堂研究会は、江戸時代の大坂において百四十年余り活動した漢学の学校「懐徳堂」、および明治末以降の懐徳堂顕彰運動によって再建された「重建懐徳堂」の研究に取り組む共同研究組織です。(竹田健二)

1.懐徳堂研究会の創立

 本会の創立は、2001年(平成13年)5月に行われた大阪大学創立七十周年記念事業と深く関わっています。大阪大学は、緒方洪庵の蘭学塾・適塾と懐徳堂とをその源流として位置づけることから、記念事業の一環として、最新のデジタル技術によって懐徳堂と適塾とを再構築する「バーチャル適塾・懐徳堂」を作成・公開することとなりました。そこで2000年(平成12年)4月、大阪大学の湯浅邦弘教授は、懐徳堂研究の実績を持つ大阪大学中国哲学研究室の関係者を組織して懐徳堂研究会を立ち上げ、「バーチャル懐徳堂」のデジタルコンテンツ作成を開始しました。これが本会発足の発端です。

 懐徳堂に関係する貴重資料は、大阪大学附属図書館の懐徳堂文庫に多数収蔵されています。本会のメンバーは、分担して懐徳堂文庫の資料を実見調査し、その成果を踏まえて約百点の解題を執筆しました。またいくつかの文献については全文テキスト化を行い、あわせて「懐徳堂年表」・「懐徳堂事典」等も作成しました。こうして、「バーチャル懐徳堂」のデジタルコンテンツの一環として、懐徳堂データベース(「新建懐徳堂」と称した)が完成したのです。

 「バーチャル懐徳堂」のデジタルコンテンツは、もともとスタンドアロンを前提に作成されていました。そこで、懐徳堂関係のデジタルコンテンツにインターネットでアクセスできるようにすることを主な目的として、日本学術振興会の科学研究費補助金基盤研究(A)(2)「デジタルコンテンツとしての懐徳堂研究」(研究代表者下條真司大阪大学サイバーメディアセンター教授、2001~2004年)が開始されました。本会のメンバーが研究分担者・研究協力者としてこの研究に参加し、懐徳堂データベースのコンテンツを約三百点に拡充しました。また『懐徳堂文庫図書目録』(大阪大学文学部編、1976年)を電子化し、更に修訂・補遺について共同で行うことができるようにした『懐徳堂文庫電子図書目録』の作成・公開に伴って、その具体的な修訂・補遺作業等にも取り組みました。こうして2004年2月に公開されたのが、「WEB懐徳堂」です。「WEB懐徳堂」は、その後も新たなコンテンツを次々と加え、今日に至っています。

 懐徳堂研究会はその創設以来、懐徳堂関係のデジタルコンテンツ作成を中心として活動してきましたが、同時にメンバーそれぞれは、デジタルコンテンツ作成作業で得た新たな知見に基づき、懐徳堂や重建懐徳堂に関する研究を推進しました。そしてその成果を懐徳堂研究会の研究会合において発表し、更に学会での口頭発表や論文執筆へと発展させています。

2.「儒蔵」プロジェクト

 2006年(平成18年)、湯浅教授は財団法人東方学会理事の戸川芳郎氏から依頼を受け、「儒蔵」日本編纂委員会委員となりました。「儒蔵」とは、北京大学など中国の約25の大学や研究期間が連携して推進している、儒学に関連する教典を網羅しようとする大事業です。この「儒蔵」の中に日本に現存する漢籍も含まれることとなり、日本編纂委員会が設立され、湯浅教授は中井履軒の『大学雜議』・『中庸逢原』・『論語逢原』・『孟子逢原』の原稿執筆を依頼されたのです。

 湯浅教授は懐徳堂研究会関係者に協力を依頼し、メンバーは分担して原稿の執筆に当たりました。詳細については、湯浅邦弘「蘇る懐徳堂四書―「儒蔵」編纂事業について」(『懐徳堂センター報』2009、大阪大学大学院文学研究科・文学部・懐徳堂センター)を御参照ください。

 なお、『大学雜議』・『中庸逢原』・『論語逢原』・『孟子逢原』の原稿は既に完成し、中国側に提出済みであり、近く刊行される予定です。

3.懐徳堂の総合的研究

 2013年(平成25年)、竹田を研究代表者とする日本学術振興会の科学研究費補助金基盤研究(B)「懐徳堂の総合的研究」が採択されました。この研究は、懐徳堂と重建懐徳堂とを、中断を挟みながらも連続する一つの学校として位置付けた上で、(1)懐徳堂・重建懐徳堂の学問について、総合的な資料調査を基盤とした実証的解明を行うこと、(2)懐徳堂・重建懐徳堂の学問を中心として、近世以降の大阪における儒教の展開の全容を解明すること、(3)大阪における儒教が日本の儒教史において占める位置を解明することを目的とするものです。懐徳堂研究会のメンバーのほとんどが研究分担者・研究協力者・連携研究者として研究組織に加わっています。

 現在の本会の活動の中心は、定期的に開催する研究会合です。メンバーは懐徳堂関係資料の調査に精力的に取り組むとともに、それぞれが分担する課題について研究に取り組み、その成果を研究会合において発表し、参加者全員によって討議を行っています。メンバー各自はその討議を踏まえて更に研究を進め、学会での口頭発表や論文執筆を行っています。